タールの次は「セタール」を。
ちなみに、「タール تار」はペルシア語で「弦」という意味である。「セタール سه تار」の「セ سه」は、ペルシア語で数字の「3」。つまり、セタールを日本語に翻訳すれば「三弦」という意味になる。
セタールもタール同様、3コースの撥弦楽器であるが、複弦になっているのは一番低いコースのみで、あとの2コースは単弦である。ということは、全部で四弦なのだが、楽器の名前は三弦なのである。聞いた話では、ずっと昔は実際に三弦の楽器だったようであるが、あるとき、ある奏者が音のダイナミクスを広げようと低音部分にドローン弦を加えてみたところ、これがなかなかに良い効果を生むというのでそのまま四弦になっとかどうとか。
ちなみに、後から追加されたドローン弦のことを「ムシュターク مشتاق」と呼ぶが、これはドローン弦を追加した人の名前からきているのだそう。
形状は、瓜のような形をしたボディからネックが伸びており、タールに比べるといたってシンプルである。
ボディはすべて木材でできており、湿気の影響を受けやすい皮が使われていないので、タールに比べれば格段に扱いやすい楽器である。
弾く際、ピックは使わず、(右利きの場合)右手人差し指の「爪」だけを使ってオルタネイト・ピッキング(ダウン・ピッキングとアップ・ピッキング)を行う。
ちなみに、タールで使われる「メズラーブ مضراب 」はギターのピックの様に人差し指と親指で摘んで持つスタイルであるが、生爪が使えない人用にセタールにもそれがある。セタールの場合は、人差し指の「爪」の代わりになるよう、指に被せて使う。これにはいろいろな種類があるが、私は写真のような2種類を持っている。
さらに、メズラーブには打弦楽器の「サントゥール」で使う「撥」の意味もある。
セタールのネックに巻き付いているフレットも、タール同様に大抵はガットだが、もちろんシンセティックもある。
音色は、本体の構造がシンプルなぶん、タールに比べるともっと原初的で、音量もかなり小さい。 しかしながら、音の表情は繊細にして、大変雄弁である。
主な奏者を紹介すると、タールの回で挙げたロトフィさんやアリザーデーさんらも、セタールの名手でもある。セタールは演奏者の人格が出ると、私は個人的に思っているのだが、二人の演奏はまさにそれが顕著だと思う。
アリザーデーさんのセタールは、知的で、正確無比で、情熱的。
一方、(晩年の)ロトフィさんの演奏には、根底に「歌」がある。そして演奏の中に即興的なユーモアやペーソスがあり、まさに「語りかけるように」セタールを爪弾いているように聞こえる。
そしてやはりセタール、と言えばオスタード・ジャラール・ゾルフォヌーン(Jalal Zolfonoon جلال ذوالفنون )。
ゾルフォヌーン先生は、演奏家として、もちろん素晴らしいのだが、国民的歌手であり器楽奏者でもあるオスタード・シャフラーム・ナーゼリー(Shahram Nazeri شهرام ناظری)の有名なアルバム、「gol-e sadbarg گل صدبرگ 」では演奏だけでなく作曲やアレンジ、バンドマスターをされている。
超絶技巧のオスタード・ベフダード・ババエイ(Behdad Babaei بهداد بابایی)。
演奏は繊細で緻密。セタールという楽器のポテンシャルをあますところなく発揮している。