トンバクの奏法、というよりも、イラン音楽の器楽全体に言えることだが、1拍目の音を出す直前、短前打音(アッチャッカトゥーラ)を入れる事が多い。この短前打音のことを、エシャレ(اشاره)と呼ぶ。
トンバクの短前打音は、両手の指(右手=親指も入れた5本、左手=親指を除く4本)を使ったワンショットロール、または、両手の人差し指のと中指による「裏ペラング」、それと、左手の人差し指、中指、薬指を使ったペラング連打、の3パターンがある。
最初は、もっともよく使われているスタイルのエシャレ。
バフマン・ラジャビー(بهمن رجبی)先生の教則本ではこのスタイルが紹介されていて、いろいろな楽曲を聴いていると、圧倒的に多用されているのがこれ。
次は、やはりラジャビー先生の教則本でちょいちょい出てくる、上手(右利きならば、左手)の薬指、中指、人差し指、の三本の指をさささ、っとペラング(指鳴らし)の要領でエシャレするスタイル。
このスタイルの良いところは、くっきりとしたエシャレを表現することができるので、例えばセタールやネイとのデュオなどで、静かなシーンではオーソドックスなエシャレ#1、派手めなシーンではこちらのエシャレ#2、のように使い分けることで音表現の幅を広げることができる。
最後は、両手の人差し指と中指を使ったエシャレ。人差し指のペラングを応用したスタイル。
このエシャレのやり方は、ホセイン・テヘラーニー(حسین تهرانی)先生の教則本で紹介されているのだけれども、現代の奏者でこれをやっているのは、フランス在住のケイヴァーン・チェミラーニー(Keyvan Chemirani)、ビージャーン・チェミラーニー(Bijan Chemirani)兄弟が有名。それもこれも、二人のお父さん、ジャムシード・チェミラーニー(Djamchid Chemirani)がテヘラーニー先生の直弟子だったことに因る。2018年にチェミラーニー兄弟が来日した際に弟のケイヴァーンさんからプライベートレッスンを受けたが、終始、このエシャレのやり方だけで90分経ってしまった。。